車両や機械、鉄塔、建築資材など、重量のあるものを移動する際には「ウインチ(巻き上げ機)」が使われます。
ウインチの動力は電気だけでなく、油圧、ガソリン、空気などを利用したものもあり、それぞれ最適な用途があるため、違いを把握することが大切です。
今回は、ウインチの概要を踏まえ、動力によるウインチの種類と特徴、最適なウインチを選ぶポイントなどについて解説します。
目次
ウインチとは?
ウインチとは、滑車やドラムなどでワイヤーを巻き取ることで、重量物の吊り上げ、吊り下げ、けん引、横引きなどをする機械のことです。
足場部材などの撤去作業、車両や機械などの昇降、重量物を設置する際のけん引、伐採樹木の引き上げといった、さまざまな用途で使用されます。
ワイヤーと滑車の組み合わせにより、対象物から離れた位置で遠隔操作が可能です。対象物に近づく必要がなく、重いものを簡単かつ安全に移動できます。また、ウインチはコンクリートなどの構造物に固定する定置型、移動や運搬が可能な可搬型に分類されます。
なおウインチとよく似ていると言われるホイストですが、ホイストは荷物を吊り上げ、吊り下げをすることしかできず、横移動はできません。
これに対してウインチは、荷物の吊り上げ吊り下げだけではなく、横移動も可能です。
【動力別】ウインチの種類
ウインチは動力ごとに特徴があります。ウインチの動力別に、特徴と最適な用途について解説します。
手動式ウインチ
手動式ウインチはその名のとおり、手動でワイヤーを巻き上げるウインチのことです。手動式ウインチは、以下の2種類に分類されます。
回転式ウインチ
回転式ウインチとは、ハンドルを360度回転させ、ワイヤーを巻き上げるタイプです。重量物の吊り上げ・吊り下げ・横引きが可能で、一般家庭での使用に適しています。
回転式ウインチは可搬型でどこでも使えるうえに、1人でも数人分の力を出せるのが特徴です。機種により吊り上げ用と横引き用に分かれているため、使用場所や用途に合わせて選びましょう。
ラチェット式ウインチ
ラチェット式ウインチとは、長いレバーを手前に引く・戻すという運動でワイヤーを巻き上げるタイプのウインチです。
レバーを左右に往復すると、ワイヤーの巻き取り・巻き戻しができます。 ラチェット式も回転式と同様に、重量物の吊り上げ、吊り下げ、横引きが可能です。
回転式はハンドルを360度回す必要があるため、レバーを引く動作のラチェット式ウインチは狭い場所でも作業できます。
ただし、レバーを引く・戻すという作業を繰り返すため、回転式よりも手間がかかるので注意しましょう。
電動式ウインチ
電動式ウインチは、電気でモーターやエンジンを動かし、ドラムにワイヤーを巻き上げるタイプのものです。
インバーターモーターなどを搭載すると、ワイヤーの巻き上げ速度を自由に調整できます。 動力が電動、かつウインチを回転する機動力(起動トルク)が大きく、伝導効率もよいため、巻き上げ作業が楽に行えます。
また、長距離のストロークが必要な場合でも作業が可能です。 電力は100V~200V、荷重は130kg~6,000kgと、一般家庭から産業用まで、さまざまな用途をカバーしています。
エンジン式ウインチ
エンジン式ウインチは、エンジンでクランクシャフトを回転させる動力を利用したウインチです。エンジン式はガソリンエンジン・ディーゼルエンジンの2種類があり、前者は点火プラグ、後者は圧縮により燃料をシリンダー内へ噴射させる圧縮熱を利用します。
エンジン式は電気や配線を必要としないため、電源がない場所でも作業できるのが特徴です。けん引力も1,000kg前後と大きいため、伐採した木材を移動させる林業でよく使用されます。
なお、エンジン式の本体は10万円台~20万円以上と高額ですが、トータルのコストが安いのが魅力といえるでしょう。
油圧式ウインチ
油圧式ウインチは、電動機やエンジンを動力源とし、油圧モーターでドラムを回転させてワイヤーを巻き上げるウインチです。
油圧式は無段階の速度制御が可能で、正転や停止などの操作がスムーズにできます。資材の運搬に加え、船舶におけるアンカーの投下・巻き上げ、係留、船の引き上げ、海洋観測などで使用されています。
空気圧式
空気圧式ウインチは、エアモーターを用いたウインチです。電気がない場所でも利用できる、コンプレッサーを使用したタイプもあります。
小型で軽量、速度調整も可能で、かつ防爆性に優れているのが特徴です。化学工場、造船所、トンネル坑内などでの使用に適しています。
用途に合ったウインチの選び方
ウインチは、動力や機能(吊り上げ、吊り下げ、けん引、横引き)が機種によって異なります。
ここからは、用途に合ったウインチを選ぶために知っておきたい、動力や機能以外のポイントについて見ていきましょう。
張引力・ストロークを確認
張引力とは、ウインチが引き上げられる最大重量のことで、重量が大きいほど重いものの移動が可能です。なお、最大重量ではなく、定格荷重・最大荷重と記載されることもあります。
小型のもので200kg以上、大きいもので1tを超えるため、対象物の重量に合わせて選びましょう。 一方、ストローク(揚程)とは、ワイヤーの長さを指します。
自宅で使用する場合は10m以下でも足りますが、車のけん引などに使用する場合は10m以上の長さが必要です。
ワイヤーの巻き上げ速度を確認
市販のウインチにはワイヤーの巻き込み速度が表示されており、多くの製品では同一の速度になっています。
ただし、機種により速度が多少異なる場合や、速度調整が可能なインバーターモーターを搭載した電動式ウインチもあるので、確認が必要です。
なお、手動式ウインチの場合、巻き上げの回数である「ギア比」が記載されているものもあります。ギア比は1に対する巻き上げの回転数を指し、「4:1」の場合は4回転が必要という意味です。
巻き上げの回数が多いとギア比も高くなり、スピードが劣る反面、少ない力で重量物を引っ張ることができます。手動式を選ぶ場合は、速度・重量のどちらを優先するかで決めるとよいでしょう。
ウインチは、さまざまな業界で用いられる
ウインチは重量のあるものを、吊り上げ、吊り下げ、けん引、横引きなど移動させられる機械です。ワイヤーをドラムに巻き上げるという仕組みは変わりませんが、巻き上げる動力により特徴が異なります。
家庭用には手動式、小型の電動式、業務用には大型の電動式、油圧式、空圧式が適しています。ウインチを選ぶ際には、ものを動かす力である張引力、ストローク、ワイヤーの巻き上げ速度なども考慮しましょう。
なお、ウインチを使用する業務に携わる場合、「巻上げ機(ウインチ)の運転の業務特別教育」を受講しなければなりません。
ウインチは使い方を誤ると重大な事故につながるため、労働安全衛生法で定める「危険または有害な業務」に含まれているためです。
「巻上げ機(ウインチ)の運転の業務特別教育」は講習会の参加、またはオンラインの通信講座でも受講できます。
仕事でウインチを扱う方は、オンラインでいつでも受講できるSATのWeb講座をぜひご利用ください。