労働安全衛生法により、一定の要件を満たす企業は、安全管理者・衛生管理者を選任する義務があります。
しかし、安全管理者、衛生管理者が具体的にどのような役割を担っているのか、詳しく知らない方も多いかもしれません。
今回は安全管理者・衛生管理者の役割、選任要件、必要な資格について解説します。また、安全管理者と衛生管理者の兼任についても併せて紹介します。
目次
安全管理者の基礎知識
まずは、安全管理者の概要、選任要件、必要な資格を見ていきましょう。
安全管理者とは?
安全管理者とは、労働安全衛生法で定める事業場の安全を管理する管理者のことです。
安全管理者などの管理者を統括する、総括安全衛生管理者の職務のうち、「安全の技術的事項」を管理します。
安全管理者は、作業場所や作業方法に危険がある事業場において、応急措置や危険の防止措置を行います。安全管理者の具体的な職務は、次のとおりです。
安全管理者の職務 | |
---|---|
No. | 内容 |
1 | 建設物、設備、作業場所又は作業方法に危険がある場合における応急措置又は適当の防止の措置(設備新設時、新生産方式採用時における安全面からの検討を含む。) |
2 | 安全装置、保護具その他危険防止のための設備・器具の定期的点検及び整備 |
3 | 作業の安全についての教育及び訓練 |
4 | 発生した災害原因の調査及び対策の検討 |
5 | 消防及び避難の訓練 |
6 | 作業主任者その他安全に関する補助者の監督 |
7 | 安全に関する資料の作成、収集及び重要事項の記録 |
8 | その事業の労働者が行う作業が他の事業の労働者が行う作業と同一の場所において行われる場合における安全に関し、必要な措置 |
また、上記の事項は昭和47年に作られたものです。労働安全衛生法の改正により、総括安全衛生管理者に対し以下の職務が追加されています。
安全管理者の職務に含まれる可能性があるもの | |
---|---|
No. | 内容 |
1 | 安全衛生に関する方針の表明に関すること。 |
2 | 労働安全衛生法第28条の2第1項又は第57条の3第1項及び第2項の危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置に関すること。 |
3 | 安全衛生に関する計画の作成、実施、評価及び改善に関すること。 |
安全衛生管理者は、総括安全衛生管理者の補佐的な役割を持つことから、追加の職務も業務に含まれます。
安全管理者の選任要件
安全管理者は、労働安全衛生法第11条第1項により定められている業種、かつ常時50人以上の労働者を使用する事業場において選任する必要があります。安全管理者の選任が求められる業種は、次のとおりです。
安全管理者の選任が必要な業種 | |
---|---|
1 | 林業 |
2 | 鉱業 |
3 | 建設業 |
4 | 運送業 |
5 | 清掃業 |
6 | 製造業(物の加工業を含む。) |
7 | 電気業 |
8 | ガス業 |
9 | 熱供給業 |
10 | 水道業 |
11 | 通信業 |
12 | 各種商品卸売業 |
13 | 家具・建具・じゅう器等卸売業 |
14 | 各種商品小売業 |
15 | 家具・建具・じゅう器小売業 |
16 | 燃料小売業 |
17 | 旅館業 |
18 | ゴルフ場業 |
19 | 自動車整備業 |
20 | 機械修理業 |
また、特定の業種区分に応じた事業場の規模により、安全管理者のうち1人を「専任」する必要があります。安全管理者の専任要件は、次のとおりです。
安全管理者のうち1人を専任する要件 | ||
---|---|---|
No. | 業種 | 事業場の規模(常時使用する労働者数) |
1 | 建設業、有機化学工業製品製造業、石油製品製造業 | 300人 |
2 | 無機化学工業製品製造業、化学肥料製造業、道路貨物運送業、港湾運送業 | 500人 |
3 | 紙・パルプ製造業、鉄鋼業、造船業 | 1,000人 |
4 | 選任が必要な業種で上記以外のもの。ただし、過去3年間の労働災害による休業1日以上の死傷者数の合計が100人を超える事業場に限る | 2,000人 |
出典:厚生労働省
上記の表を参考にして、自身の職場や作業現場が該当をしているかよく確認をしましょう。
安全管理者に選任される資格
安全管理者に選任されるには、労働安全コンサルタントの資格を取得する、または以下の資格要件のいずれかに該当したうえで「安全管理者選任時研修」を修了する必要があります。
安全管理者選任時研修を受けられる要件は、次のとおりです。
安全管理者選任時研修を受けられる要件 | |
---|---|
No. | 要件 |
1 | 学校教育法による大学、高等専門学校における理科系統の正規の課程を修めて卒業した者で、その後2年以上産業安全の実務に従事した経験を有するもの |
2 | 学校教育法による高等学校、中等教育学校において理科系統の正規の学科を修めて卒業した者で、その後4年以上産業安全の実務に従事した経験を有するもの |
3 | 学校教育法による大学、高等専門学校における理科系統の課程以外の正規の課程を修めて卒業した者で、その後4年以上産業安全の実務に従事した経験を有するもの |
4 | 学校教育法による高等学校、中等教育学校において理科系統の学科以外の正規の学科を修めて卒業した者で、その後6年以上産業安全の実務に従事した経験を有するもの |
5 | 7年以上産業安全の実務に従事した経験を有するもの |
6 | その他(職業訓練課程修了者関係) |
出典:厚生労働省
安全管理者選任時研修の受講方法
安全管理者選任時研修を受講する方法として、まず考えられるのが全国で実施されている安全管理者選任時研修会を受講する方法です。各地にある労働基準協会などが不定期に開催しており、ホームページや電話などで事前に予約をし、指定された会場で受講をします。
ただし、毎日のように実施されているわけではありません。東京都の場合は1ヶ月に1〜2回程度の場合が多く、地方であればさらに実施回数が少なくなります。
受講のスケジュールが合わない場合は、安全管理者選任時研修をオンラインで受講することもおすすめです。
オンラインの場合はPCやスマートフォンやタブレット端末を利用して受講をします。また、ネット回線が必要になるので環境を整える必要はありますが、場所を選ばずにどこからでも受講ができる点は大変便利です。
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衛生管理者の基礎知識
次に、衛生管理者の概要、選任要件、衛生管理者資格について見ていきましょう。
衛生管理者とは?
衛生管理者とは、労働安全衛生法に基づく労働環境の改善、労働者の健康保持など、職場の衛生全般を管理する管理者を指します。
衛生管理者の具体的な職務は、以下のとおりです。
衛生管理者の職務 | |
---|---|
No. | 内容 |
1 | 健康に異常がある者の発見及び処置 |
2 | 作業環境の衛生上の調査 |
3 | 作業条件、施設等の衛生上の改善 |
4 | 労働衛生保護具、救急用具等の点検及び整備 |
5 | 衛生教育、健康相談その他の労働者の健康保持に関する必要な事項 |
6 | 労働者の負傷及び疾病、それによる死亡、欠勤及び移動に関する統計の作成 |
7 | その事業の労働者が行う作業が他の事業の労働者が行う作業と同一の場所において行われる場合における衛生に関し、必要な措置 |
8 | その他衛生日誌の記載等職務上の記録の整備等 |
なお、安全管理者と同様に労働安全衛生法の改正により、総括安全衛生管理者に対して衛生に関する技術的事項が追加されています。以下に挙げる項目も、衛生管理者の職務に含まれます。
衛生管理者の職務に含まれるもの | |
---|---|
No. | 内容 |
1 | 安全衛生に関する方針の表明に関すること。 |
2 | 労働安全衛生法第28条の2第1項又は第57条の3第1項及び第2項の危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置に関すること。 |
3 | 安全衛生に関する計画の作成、実施、評価及び改善に関すること。 |
衛生管理者の具体的な業務は、職場の巡視による職場内の衛生環境チェック、健康診断の結果に基づく面談、ストレスチェックなどが挙げられます。
衛生管理者の選任要件
衛生管理者は、労働安全衛生法第12条第1項により、常時50人以上の労働者を使用する事業場に選任する義務があります。
労働者の人数が多くなると、衛生管理者の業務量も膨大になるため、事業場の規模に応じた人数の衛生管理者を選任しなければなりません。事業場の規模に対する、衛生管理者の選任人数は次のとおりです。
事業場の規模に応じた衛生管理者の選任要件 | ||
---|---|---|
No. | 事業場の規模(常時使用する労働者数) | 衛生管理者の数 |
1 | 50人以上200人以下 | 1人 |
2 | 200人を超え500人以下 | 2人 |
3 | 500人を超え1,000人以下 | 3人 |
4 | 1,000人を超え2,000人以下 | 4人 |
5 | 2,000人を超え3,000人以下 | 5人 |
6 | 3,000人を超える場合 | 6人 |
衛生管理者の選任に必要な資格
衛生管理者に選任されるには、第一種または第二種の衛生管理者免許が必要です。衛生管理者免許を取得するには、安全衛生技術試験協会が主催する試験に合格する必要があります。
第一種衛生管理者と第二種衛生管理者の違いは、選任できる事業場の種類です。
第一種衛生管理者は、すべての業種の事業場において衛生管理者として選任できますが、第二種衛生管理者は、有害業務と関係性の少ない事業場のみ選任できる資格です。有害業務と関わりが少ない業種とは、金融業、保険業、卸売業、小売業などが挙げられます。
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安全管理者と衛生管理者の兼任について
安全管理者は安全に関する技術的事項、衛生管理者は衛生に関する技術的事項と、それぞれの管理対象は異なります。
しかし、どちらも総括安全衛生管理者の補佐的な立場です。では、安全管理者と衛生管理者の兼任は可能なのでしょうか?
安全管理者と衛生管理者を兼任できる?
結論からいうと、法律上は安全管理者と衛生管理者の兼任は可能です。常時使用する労働者が50人以上という要件のみを満たしている場合、安全管理者と衛生管理者を専任する義務はないためです。
ただし、安全面と衛生面の両方を管理するため、単純に業務量が膨大になります。
管理業務に支障が生じる可能性が高くなる場合、兼任すべきではないでしょう。
複数の事業場を兼務できる?
衛生管理者は事業場ごとに選任する必要があるため、複数の事業場を兼務できません。
また同様に、安全管理者も事業場ごとの選任が必要です。
ただし、企業の分社化にともない1つの事業場が分割された場合は、安全管理者や衛生管理者を兼務できます。これまで培った安全衛生管理のシステムやノウハウを、従来どおりに活用するほうが適切な場合があるためです。
分社化した親事業者の安全管理者や、衛生管理者が子事業場と兼務するには、以下の要件のいずれにも該当する必要があります。
安全管理者・衛生管理者を兼務できる要件 | |
---|---|
No. | 内容 |
1 | 子事業者の事業場が、親事業者の分社化に伴い、親事業者の事業場の一部が分割されたものであること。 |
2 | 親事業者の事業場と子事業者の事業場が同一敷地内にある、又は敷地が隣接していること。 |
3 | 安全衛生に関する協議組織が設置される等、分社化後も引き続き安全衛生管理が相互に密接に関連して行われていること。 |
4 | 親事業者の事業場における事業の内容と子事業者の事業場における事業の内容が、分社化前の事業場における事業の内容と比較して著しい変化がないこと。 |
出典:安全衛生情報センター
安全管理者・衛生管理者の兼任は注意が必要
常時50人以上の労働者を使用する事業場は、安全管理者と衛生管理者を選任する義務があります。
安全管理者は安全に関する技術的事項の管理者で、危険をともなう作業などの応急措置、安全装置などの点検、労働災害の原因調査や対応策といった職務を担います。
一方、職場の環境衛生、労働者の健康を保持する職務を担うのが衛生管理者です。衛生管理者の場合、第一種衛生管理者免許、または第二種衛生管理者免許が必要です。
法律上は安全管理者と衛生管理者の兼任は可能ですが、膨大な業務量になるなど、業務に支障をきたす場合は避けましょう。なお、1つの事業場が分社化する場合、所定の要件を満たした場合に安全管理者および衛生管理者の兼務が可能です。
安全管理者と衛生管理者はそれぞれ別の職務を担いますが、労働災害や健康障害がない労働環境の整備に必要な存在です。要件を満たす事業場は、安全管理者と衛生管理者を必ず選任するようにしてください。