労働安全衛生規則では、労働災害を防止するため、新たに雇入れる労働者に対し「雇入れ時等安全衛生教育」を受講することが定められています。
これは派遣労働者・パート・アルバイトなどの非正規雇用であっても雇入れ時等安全衛生教育の受講が必須になります。
今回は、雇入れ時等安全衛生教育の受講内容や、派遣労働者が受講する必要性、雇入れ時等安全衛生教育の受講方法などについて解説します。
目次
雇入れ時等安全衛生教育とは?
まずは、雇入れ時等安全衛生教育の内容を見ていきましょう。
雇入れ時等安全衛生教育の概要
安全衛生教育とは、労働者に安全衛生の知識を学ばせることで、労働災害を防止するための教育です。雇入れ時だけではなく、作業内容変更時にも安全衛生教育を実施する必要があります。
なお冒頭でも触れましたが、雇入れ時等安全衛生教育はフルタイムのみならず、派遣労働者・パート・アルバイトなどすべての労働者の受講が義務付けられています。
しかし、短時間勤務者に対し、雇入れ時等安全衛生教育の受講を実施しない事業場も少なくないようです。
雇入れ時等安全衛生教育の内容
労働安全衛生規則第35条で定められている、雇入れ時等安全衛生教育の内容は次のとおりです。
No. | 雇入れ時等安全衛生教育の内容 |
---|---|
1 | 機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱方法に関すること |
2 | 安全装置、有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱方法に関すること |
3 | 作業手順に関すること |
4 | 作業開始時の点検に関すること |
5 | 当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防に関すること |
6 | 整理・整頓及び清潔の保持に関すること |
7 | 事故時等における応急措置及び退避に関すること |
8 | 前各号に掲げるもののほか、当該業務に関する安全又は衛生のために必要な事項 |
また、次に挙げるもの以外の業種は、上記1号~4号の雇入れ時等安全衛生教育を省略できます。
No. | 業種 |
---|---|
1 | 林業、鉱業、建設業、運送業及び清掃業 |
2 | 製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゆう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゆう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業及び機械修理業 |
引用:労働安全衛生規則第 35 条で実施すべきとされている労働安全衛生教育(1~8)
派遣労働者に対する雇入れ時等安全衛生教育について
雇入れ時等安全衛生教育は、パートやアルバイトのほかに、派遣労働者も受講が必要です。ここからは、派遣労働者における雇入れ時等安全衛生教育の必要性、派遣労働者の雇入れ時等安全衛生教育の内容を見ていきます。
派遣労働者に雇入れ時等安全衛生教育が必要である理由
特に製造業においては、派遣労働者の労働災害が数多く報告されています。
平成25年の厚生労働省のデータによると、派遣労働者の労働災害の約6割は製造業で発生しています。さらに、製造業で労働災害にあった派遣労働者のうち、約7割は実務経験が1年未満というデータがあります。
こうした背景から、雇入れ時のほか、作業内容に変更があった場合は、労働安全衛生規則第35条第1項で定める安全衛生教育を実施することになったのです。
なお、派遣労働者の安全衛生教育は、雇入れ時の安全衛生教育は派遣元、作業内容変更時教育は派遣元と派遣先が実施する義務があります。
派遣労働者の雇入れ時等安全衛生教育の内容
派遣労働者の雇入れ時等安全衛生教育の内容は、「労働安全衛生規則第35条第1項」で定めるものと同じです。前章の表に記載されている業種以外の業種であれば、直接雇用と同様に1号~4号は省略されます。
雇入れ時等安全衛生教育では、安全衛生を確保するために必要な内容を実施しなければなりません。そこで、5号~7号で実施する、教育の具体的な内容について見ていきましょう。
業務に関して発生するおそれのある疾病の原因および予防に関すること(5号)
業務を原因とする病気を防止するには、職場の環境や起こりうる病気などを学ぶ必要があります。労働災害は工業的業種だけでなく、非工業的業種でも起こりえるためです。
職場が原因の病気を防ぐには、作業環境管理・作業管理・健康管理の「労働衛生の3管理」が必要です。具体的な内容には、以下の項目が挙げられます。
No. | 病気予防につながる3管理のおもな教育内容 | |
---|---|---|
1 | 空気・温度 | ・適切な温度管理 ・適切な湿度管理(40%~70%程度が望ましい) |
2 | 採光 | ・蛍光灯など、作業面の照度。明暗の対称。まぶしくないか ・照明器具や窓面の手入れ |
3 | 清潔さ | ・ネズミ、害虫(ゴキブリ、ダニ、カなど)の駆除・防止 ・茶殻、残飯、タバコの吸殻の処理 ・更衣室、休憩室、食堂、洗面所、便所、給湯室の清掃 |
4 | 救急用具 | ・担架、救急箱の置き場所、維持管理 ・上記の管理者の把握 |
5 | 廃棄物 | ・廃棄物(ごみ、茶殻、吸殻など)の捨て場所 ・捨て場所の清掃 |
6 | 標章・表示等 | ・掲示物、標識など必要な掲示の確認 ・不要な掲示物の除去 |
7 | 防火 | ・消火器の設置場所確認 ・避難経路の表示確認および経路の整備 ・火災報知機の確認 |
また、業種により作業環境が異なるため、各業務の環境に合った安全衛生教育を実施することも必要です。デスクワークの場合は、パソコンの長時間使用にともなう体への影響、運動不足の影響などが挙げられます。
さらに、健康診断や、心身の健康管理のためのストレスチェックも安全衛生教育に組み込む必要があります。
整理・整頓、清潔の保持に関すること(6号)
4S(整理・整頓・清掃・清潔)は、労働災害防止に不可欠な要素です。整理整頓と清掃を怠ると、転倒などのケガを招く原因になります。整理整頓と清掃に関する教育の内容は、次のとおりです。
No. | 整理整頓、清潔の保持の教育内容 | |
---|---|---|
1 | 作業場・事務所 | ・床面の清掃(水や油、砂などがたまっていないか確認) ・机の上、下の整理整頓 ・書庫のなか、上などの整理整頓 ・机やイスの確認(破損はないか) ・清掃用具の確認 |
2 | 休憩所・ロッカールーム | ・机の上下の整理整頓 ・灰皿の水、吸殻、湯茶道具の整理整頓 ・ロッカールーム内の清掃、破損確認 |
事故時等における応急措置、退避に関すること(7号)
非工業的な職場であっても、急病や負傷、火災や地震などの災害が発生するかもしれません。緊急時や非常時でも対応できるよう、以下のような応急措置や避難の方法を学ぶ必要があります。
No. | 事故時等における応急措置及び退避に関する教育内容 | |
---|---|---|
1 | 負傷・疾病時の注意事項 | ・「119」番に速やかに連絡する ・患者を楽な姿勢にさせ、動かさないように注意する ・止血や呼吸停止時の対応について教育する |
2 | 地震等災害発生時の対応 | ・落下物、転倒物からすばやく身を守る ・非難口の確保 ・火の始末 ・屋外に退避等 |
派遣労働者の雇入れ時等安全衛生教育は、通信講座で
雇入れ時等安全衛生教育を受講するには、講習会または講師を社内に呼ぶ出張講習、通信講座の3つの方法があります。講習会は、各業種で特別教育を実施する協会、労働基準協会などが開催しています。
講習会に参加する時間がない方や、勤務先での出張講習が実施されない場合は、時間と場所を選ばない通信講座がおすすめです。
通信講座では、プロの講師が解説する動画と、動画の内容に沿った専用テキストで勉強します。一方的に聞き手に回る講習会と比べ、通信講座のほうが自分のペースで積極的に学べるでしょう。
また、雇入れ時等安全衛生教育を通信講座で受講する場合、もし監視人がいない場合はスマホやパソコンのカメラによる顔認証システムなどで、受講状態を担保する必要があります。動画をすべて視聴したら、顔認証の認定後に修了証の発行が可能になります。
講習会と同様のカリキュラムを、自宅で受講できるのは通信講座ならではの魅力といえます。
雇入れ時等安全衛生教育は、派遣労働者にも必須
新しく労働者を雇入れる際や、作業内容の変更があった際には、従業員に雇入れ時等安全衛生教育を受講させることが法律で義務付けられています。
雇入れ時等安全衛生教育は労働災害を防止することが目的であり、派遣労働者やパート・アルバイトも受講が必要です。雇入れ時等安全衛生教育の教育内容は全8項目ありますが、非工業的業種に該当する場合は1号~4号を省略できます。
デスクワークと製造業などでは業務内容が異なるため、雇入れ時等安全衛生教育は各業種の内容に沿った教育を実施する必要があります。作業環境の管理や整理整頓、災害時の対応など、環境に合わせた教育を実施しましょう。