熱や摩擦に強く変化しにくい性質のアスベストは、建材や吹き付け施工、工業製品などにかつては広く使われていました。
しかし、アスベストの細い繊維が空気中に飛散することで、深刻な健康被害を及ぼします。近年、アスベストを使用した建築物は老朽化を迎えているため、解体工事の際に適切なアスベスト対策が必要です。
今回は、アスベストの危険性を踏まえ、アスベストを含む建材の種類、解体工事の流れについて解説します。
目次
アスベストの基礎知識
解体工事におけるアスベストの措置に移る前にアスベストの基本的な知識をおさらいしましょう。 ここでは、アスベストの基礎知識と危険性、法改正について詳しく解説します。
そもそもアスベストとは
アスベストは、天然に存在する鉱物繊維のことです。石綿と呼ばれることもあり、さまざまな種類のアスベストがあります。 アスベストは、用途が非常に幅広く、安くて優れた建材として日本でも広く普及していました。
- クリソタイル
- アモサイト
- クロシドライト
日本で主に使用されていたアスベストの種類は上記の3つです。
アスベストは、熱や摩擦、酸やアルカリなどにも強く、変化しにくい性質を持つことから優れた断熱性・耐火性・防音性や絶縁性などを有します。
そのため、60年代の行動成長期などでは、ビルの高層化等に伴いアスベストが多く用いられている傾向です。
このほか、吹付け施工やブレーキパッドなどの工業製品にも使用されていたアスベストですが、工事をする際に空気中に飛散する極めて細かいアスベストの繊維が人体に悪影響を及ぼすことが分かりました。
潜伏期間も長いことから「静かな時限爆弾」とも呼ばれ、アスベストによる危険性を伴う業務は健康被害の可能性があります。
ですので、アスベストに関する知識を正しく身につけ、解体工事に従事する必要があるわけです。
アスベストがもつ危険性
先ほど、アスベストは人体に悪影響を及ぼすことを解説しました。 具体的には、空気中に飛散したアスベストの繊維を吸収し、肺がダメージを受けることで症状を引き起こします。
これにより、肺がん、石綿肺、中皮腫といった非常に重い病気になってしまう可能性があります。
肺の内部にアスベストの繊維が蓄積し、引き起こされる症状は上記の通りです。 またアスベストは、繊維の飛散性の高さによってレベル1~レベル3まで分類されています。
・レベル1
作業レベル1は、アスベストの発じん性が著しく高いとされています。
該当する建材の種類は「石綿含有吹き付け材」で、石綿含有吹き付け材の除去作業が該当業務です。 レベル1の作業は著しく発じん量が多い作業であるため、作業場所を隔離したり、防塵マスク・保護具を適切に使用したりしてばく露防止に努める必要があります。
・レベル2
作業レベル2は、発じん性が高いとされています。
該当する建材の種類は、石綿含有保温材・防火被覆材・断熱材などで、各材料の除去作業がアスベストの危険を伴う業務です。 レベル2の作業もまた、発じん性のある建材の除去作業なので、レベル1の時と同様のばく露対策に準じた対策が求められます。
・レベル3
作業レベル3は、レベル1・レベル2と比べて発じん性が低いとされています。
該当する建材の種類は「レベル1・レベル2に該当しないその他の石綿含有建材」で、これらの除去作業が該当業務です。 レベル3の作業は、発じん性が比較的低いですが、破砕や粉砕などの作業には発じんを伴うので湿式作業が原則とされています。 他の業務は、発じんレベルに応じて保護具を着用するといった傾向です。
アスベスト規制に関する法改正
アスベストは、人体に影響を及ぼす危険性から法改正が繰り返し行われています。 具体的には、以下の5つにおいて法改正が適用されました。
□ 工事前に行う石綿含有の事前調査
□ 工事開始前に労働基準監督署に提出する届出書
□ 吹付石綿、石綿含有保存材などの除去作業
□ 石綿含有形成版・仕上げ塗材などの除去作業
□ 写真などによる実施状況の作業記録
特定・一般・一戸建てそれぞれの「石綿含有建材調査者」の有資格者、または日本アスベスト調査診断協会に登録されている方が業務に従事できる作業者となります。
もし未取得者に業務を従事させた場合は、労働者や事業者に対して罰金制度が適用されることがあります。 労働者や周囲の人間の健康被害につながる恐れもあるため、業務従事者は講習を受講してから従事しましょう。
また、原則としてアスベストの事前調査は、全ての工事が対象です。 工事の規模や請負金額は関係ないので、必ず事前調査を実施し、必要に応じて調査結果を労働基準監督署・自治体に報告しなければなりません。
2023年10月1日からは、建築物の事前調査を有資格者に実施されることが法改正により義務付けられました。
未資格の方は建築物石綿含有建材調査者の講習を受講するようにしましょう。
アスベストを含む建材
アスベストを飛散させるおそれのある建材を、「特定建築材料」といいます。特定建築材料の種類は次のとおりです。
特定建築材料の区分 | 建築材料の具体例 |
---|---|
吹付け石綿 | 吹付け石綿 石綿含有吹付けロックウール(乾式・湿式) 石綿含有ひる石吹付け材 石綿含有パーライト吹付け材 |
石綿を含有する 断熱材 |
屋根用折板裏断熱材 煙突用断熱材 |
石綿を含有する 保温材 |
石綿保温材 石綿含有けいそう土保温材 石綿含有パーライト保温材 石綿含有けい酸カルシウム保温材 石綿含有水練り保温材 |
石綿を含有する 耐火被覆材 |
石綿含有耐火被覆板 石綿含有けい酸カルシウム板第2種 |
石綿を含有する 仕上塗材 |
石綿含有建築用仕上塗材 |
石綿含有成形板等 | 石綿含有成形板 石綿含有セメント管 押出成形品 |
出典:環境省
アスベストを含む建材を解体する際、繊維の飛散性の高さによるレベルに応じた措置が必要です。
建設業労働災害防止協会による石綿含有建材別作業レベル区分 | |||
---|---|---|---|
作業レベル | レベル1 | レベル2 | レベル3 |
建材の種類 | 石綿含有吹付け材 | 石綿含有保温材、 耐火被覆材、断熱材 |
その他の石綿含有建材 (成形板等) |
発じん性 | 著しく高い | 高い | 比較的低い |
具体的な 使用箇所の例 |
①建築基準法の耐火建築物(3階建以上の鉄筋構造の建築物、床面積の合計が200㎡以上の鉄筋構造の建築物等)などのはり、柱などに、石綿とセメントの合剤を吹付けて所定の被膜を形成させ、耐火被膜用として使われている。昭和38年頃から昭和50年初頭までの建築物に多い。特に柱、エレベータ周りでは、昭和63年頃まで、石綿含有吹付け材が使用されている場合がある。 ②ビルの機械室、ボイラ室等の天井、壁またはビル以外の建築物(体育館、講堂、温泉の建物、工場、学校等)の天井、壁に、石綿とセメントの合剤を吹き付けて所定の被膜を形成させ、吸音、結露防止(断熱用)として使われている。 昭和31年頃から昭和50年 初頭までの建築物に多い。 |
①ボイラ本体及びその配管、空調ダクト等の保温材として、石綿保温材、石綿含有けい酸カルシウム保温材等を張り付けている。 ②建築物の柱、はり、壁等に耐火被覆材として、石綿耐火被覆板、石綿含有けい酸カルシウム板第二種を張り付けている。 ③断熱材として、屋根用折版裏断熱材、煙突用断熱材を使用している。 |
①建築物の天井、壁、床などに石綿含有成形板、ビニル床タイル等を張り付けている。 ②屋根材として石綿スレート等を用いている。 |
必要な対策 | 著しく発じん量が多い作業で、作業場所の隔離や高濃度の粉じん量に対応した防じんマスク、保護衣を適切に使用するなど、厳重なばく露防止対策が必要なレベル | 比重が小さく、発じんしやすい製品の除去作業であり、レベル1に準じて高いばく露防止対策が必要なレベル | 発じん性が比較的低い作業で、破砕、切断等の作業においては発じんを伴うため、湿式作業を原則とし、発じんレベルに応じた防じんマスクを必要とするレベル |
作業の種類 | 石綿含有吹付け材の除去作業 | 石綿を含有する保温材、断熱材、耐火被覆材等の除去作業 | レベル1、レベル2以外の石綿含有建材(例えば成形板など)の除去作業 |
出典:国土交通省
レベル1は解体時にアスベストが飛散する可能性が高く、レベルが低くなるにつれて危険性が低くなります。どの建材を使用しているか確認したうえで、飛散防止対策を講じなければなりません。
アスベストを含む建物の解体工事にかかる費用
アスベストが含有されている建物の解体工事にかかる費用は、レベル1からレベル3の間で大きく異なります。
以下はおおよその費用例です。
- レベル1:1平方メートルあたり15,000円~80,000円
- レベル2:1平方メートルあたり10,000円~60,000円
- レベル3:1平方メートルあたり3,000円程度
作業が難しいレベル1が最も費用がかかります。逆に作業が比較的容易であるレベル3は最も費用が抑えられています。
上記費用はあくまでも目安とお考えください。また地方自治体等の公共団体から補助金がもらえるケースもあるので、詳細は該当建造物がある自治体等にお問い合わせください。
アスベストを含む建物の解体工事の流れ
アスベストを含む建物の解体工事の手順を、順を追って解説します。
STEP(1)アスベストに関する建物の事前調査
建物の解体工事や塗装工事、リフォーム工事等をする場合、工事の元請け業者はアスベストの有無を事前調査する必要があります。
事前調査とは、アスベストの知識をもつ有資格者によって実施される「設計図書による書面調査」「現地での目視調査」です。また、アスベストを含む建材のデータベースと照合し、使用されている建材に問題がないかを確認します。
これらの調査を実施しても、アスベストの存在がはっきりしないケースもあります。この場合、建材の分析調査、またはアスベストがあるとみなしたうえで適切な措置を講じなければなりません。
なお、事前調査の結果は書面に記録し、発注者、下請負人に報告することが義務付けられています。アスベストの有無に関わらず、事前調査結果は3年間保存し、作業場所の見やすい場所に掲示する必要があります。
STEP(2)必要書類を提出する
アスベストを含む解体工事を行なう場合、労働基準監督署、都道府県に届け出が必要です。建物に使用されている特定建築材料のレベルに応じて、以下の必要書類を提出します。
アスベスト解体工事の提出書類 | |||
---|---|---|---|
書類レベル | レベル1 ・吹付け石綿 |
レベル2 ・対価被覆板 (ケイカル板2種) ・断熱材 (煙突、屋根折板) ・保湿材 |
レベル3 ・スレート ・石綿含有岩綿吸音板 ・Pタイル ・ケイカル板1種 ・サイジング ・石綿セメント板 |
事前届出 (工事着手7日前までに都道府県知事等あて提出) |
○ (特定建設資材への付着した吹付け石綿等の有無や除去等の措置、その他計画届けについて届出書に記載) |
||
工事計画届 (14日前までに労働基準監督署長あて提出) |
○ (耐火/準耐火建築物の除去作業) |
– | – |
建築物解体等作業届 (作業前に労働基準監督署長あて提出) |
○ (封じ込め/囲い込み及び耐火/準耐火建築物以外の除去作業) |
○ (除去/封じ込め/囲い込み作業) |
– |
「特定粉じん排出等作業届書」 (14日前までに都道府県知事等あて 提出) |
○ (除去/封じ込め/囲い込み作業) |
○ (除去/封じ込め/囲い込み作業) |
– |
出典:国土交通省
なお以前は、工事計画届はレベル1のみ対象でしたが、石綿障害予防規則等の改正により、レベル2も14日前の工事計画届の提出が必要になりました。
レベル3における変更点は、有資格者による調査、調査結果の保存、作業状況の記録が追加されたことです。
さらに、工事前に石綿作業主任者、特別管理産業廃棄物管理責任者の選任が必要です。
STEP(3)近隣への工事着工の周知
アスベストを含む解体工事を行う際は、近隣住民に対して工事の実施を周知しましょう。
作業者は、自身と周囲の技術者だけでなく、近隣住民の健康被害を防止する必要もあるためです。アスベスト解体工事内や容解体工事の際の注意点を詳しくわかりやすい説明で伝える必要があります。
周知のミスは後々トラブルにつながる恐れもあるため、挨拶とあわせて解体工事の説明をしておくことが大切です。
STEP(4)足場の組み立て・確保
実際に解体工事を行う際、足場の組み立て・確保が必須です。 足場を組み立ててアスベストの繊維が飛散するのを防ぐシートで建物を覆って周囲と隔離させます。
その後は、作業従事者は作業の危険レベルに応じて保護具を着用して作業するといった流れです。 そのため、準備が整い次第、すぐにアスベスト含有建材の除去作業に移ります。
STEP(5)アスベスト飛散防止措置
アスベスト飛散防止のため、アスベストの除去、封じ込め、囲い込みの措置が義務となっています。
アスベストの飛散性が高いレベル1では、作業エリアをプラスチックシートで隔離養生し、集じん・排気装置を設置します。また、アスベストの飛散を防ぐ措置として、粉じん飛散防止処理剤で湿潤化が必要です。
アスベストを濡らすことで、アスベストの繊維と液剤が結合され、飛散せずに安全に作業することが可能です。さらに、ケレン棒やワイヤーブラシなどを用いて、手作業で入念にアスベストを落としていきます。
なお、作業の際は防じんマスクなどの保護具、使い捨ての保護衣の着用が必要です。人の出入りや廃棄物の搬出によるアスベストの漏洩を防ぐため、更衣室、洗身室、全室を含むセキュリティーゾーンを設置する場合もあります。
レベル2もレベル1に準じた、アスベスト飛散防止対策を講じます。レベル3は成形板であるため、原型のまま手作業で除去し、破砕しないことが原則です。ただし、アスベストを含むケイ酸カルシウム板第1種(ケイカル板)を破砕しなければならない場合、作業場所の隔離、湿潤化が必須です。
STEP(6)アスベストの除去作業・処分、現場の清掃
飛散防止措置をとった後は、アスベストの除去作業に移ります。
作業で除去したアスベストは廃棄処分が必要です。周囲に飛散しないよう注意しながら処分します。 また、アスベストは特別管理産業廃棄物の中に含まれる「廃石綿等」として処分の基準が定められているのが特徴です。 そのため、専用の袋に詰めて他の廃棄物とは区別し、高性能掃除機などで外側のアスベストを除去した後で2重梱包して保管場所に集積させます。
また、アスベスト除去作業が完了した後は現場の清掃が必要です。 除去したアスベストを運搬した後、足場や隔離養生する際に使用した道具などを撤去します。 その後は、産業廃棄物処理業者に委託し、処分が完了したかどうかを確認してアスベスト関連の作業は終了です。
処理の確認に使用された伝票(マニフェスト)には、5年間の保管義務が定められているため、紛失しないよう注意して保管しましょう。
STEP(7)建物の解体
アスベスト関連の解体工事が終了したら、建物全体の解体工事・整地を行います。 ほこりなどが蔓延しないよう注意しながら、屋根や構造体、外壁、基礎部分などを解体することが大切です。
建物の解体後は、ごみの撤去などで整地を行い、工事は終了します。 整地の結果で土地の価値が変動することもあるため、どの作業も集中して取り組むことが必要です。
STEP(8)解体工事内容を記録・報告する
写真や動画で記録した解体工事の作業内容は、3年間の保存が義務付けられています。さらに、労働者ごとに作業に従事した期間、作業内容、保護具の使用状況などの記録も必要です。労働者に関する記録は、「40年間」の保存が義務付けられています。
解体工事のアスベスト対策で、健康被害を防止する
断熱や防火、結露などの対策ができるアスベストは、吹き付け材、保温材、耐火被覆材、断熱材、スレート材などの成形板などに活用されていました。しかし、アスベストは肺がんなどの健康被害をもたらすことから、段階的に使用が規制され、現在では全面禁止となっています。
アスベストを使用した建物は老朽化を迎えており、解体工事やリフォームの需要が高まっています。解体工事はアスベストの繊維が飛散するおそれがあるため、事前調査、書類の届出、飛散防止措置など、適正な対策を講じなければなりません。
アスベストの飛散性に応じた措置が必要であるため、解体工事の際は法令に基づいた対応を実施しましょう。
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アスベストの危険性や解体工事のおさらい
[sc_fs_multi_faq headline-0=”h3″ question-0=”アスベストの危険性とは?” answer-0=”アスベストは、きわめて細かい繊維が空気中に飛散し肺が吸収して蓄積されることで人体に悪影響を及ぼします。 肺がん・石綿肺・中皮腫など具体的に発症する症状はさまざまです。
そのため、レベル1からレベル3に分けられている作業いずれも油断せず安全に留意して作業する必要があります。” image-0=”” headline-1=”h3″ question-1=”アスベスト解体工事にかかる費用はどれくらい?” answer-1=”アスベスト解体工事にかかる費用の相場は、1平方メートルあたり15,000円~80,000円です。 また、レベル1からレベル3の中でも作業難易度が高くなるにつれて解体費用も高くなります。
・レベル1:1平方メートルあたり15,000円~80,000円
・レベル2:1平方メートルあたり10,000円~60,000円
・レベル3:1平方メートルあたり3,000円程度
また、アスベストの含有調査と除去工事には地方の公共団体が補助金を支給するケースもありますので、費用が不安な方は、ぜひ情報をご確認ください。” image-1=”” headline-2=”h3″ question-2=”建物解体工事の注意点は?” answer-2=”建物解体工事における注意点としては、主に以下の内容が挙げられます。
・近隣住民に周知を徹底すること
・必要書類を労働基準監督署、自治体などに提出すること
・アスベストの事前調査を実施すること
・安全に留意して作業すること
・アスベスト含有建材は適切な方法で処分すること
特に2023年10月1日からは資格保有者にアスベストの事前調査を実施させることが義務付けられました。” image-2=”” count=”3″ html=”true” css_class=””]