数ある業種のなかでも、特に製造業では労災事故が多く発生しています。
転倒やはさまれなどが原因による負傷だけでなく、死亡事故も実際に起きています。危険性をともなう機械を用いる製造業は、重点的に労働災害防止対策を講じなければなりません。
そこで今回は、製造業の労災事故の状況と事故事例を踏まえ、製造業の労働災害に対する5つの防止対策について解説します。
目次
製造業における労災事故の状況
令和4年の労働災害発生状況において、製造業の死亡災害は140人、休業4日以上の死傷災害は26,694人でした。
製造業の業種別で見ると、死亡災害は輸送用機械等製造業(造船業)、金属製品製造業、食品製造業、化学工業で、死傷災害は食料品製造業、金属製品製造業、化学工業、輸送用機械等製造業で労災事故が多く発生しています。
製造業の労災事故(死傷災害)において、過去4年間で上位10位を占める事故の型別は次のとおりです。
No. | 事故の型別 | 年度:件数 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
令和元年 | 令和2年 | 令和3年 | 令和4年 | 令和5年 | ||
1 | はさまれ・巻き込まれ | 6,959 | 6,209 | 6,501 | 6,416 | 6,377 |
2 | 転倒 | 5,070 | 5,094 | 5,332 | 5,757 | 5,823 |
3 | 墜落・転落 | 2,975 | 2,943 | 2,944 | 2,867 | 2,870 |
4 | 動作の反動・無理な動作 | 2,646 | 2,595 | 2,929 | 2,922 | 3,191 |
5 | 切れ・こすれ | 2,571 | 2,320 | 2,319 | 2,330 | 2,327 |
6 | 飛来・落下 | 1,801 | 1,730 | 1,811 | 1,808 | 1,810 |
7 | 激突 | 1,312 | 1,237 | 1,333 | 1,338 | 1,315 |
8 | 激突され | 1,203 | 1,040 | 1,160 | 1,070 | 1,142 |
9 | 高温・低温の物との接触 | 911 | 885 | 813 | 843 | 953 |
10 | 崩壊・倒壊 | 595 | 508 | 512 | 542 | 482 |
出典:厚生労働省
上記のとおり、製造業での死傷者は「はさまれ・巻き込まれ」による事故が最も多く発生しています。
また、製造業の労災事故の起因物は、仮設物・建築物・構造物、一般動力機械などが上位を占めます。仮設物等では、滑りやすい床、床の段差や障害物などで転倒するケースが多いようです。墜落・転落事故は、高所作業の安全対策が十分でない場合に起きています。
一方、動力機械系は、はさまれ・巻き込まれ、切れ・こすれの原因となります。機械の操作ミス、管理不良、操作者のスキル不足がおもな要因です。はさまれ・巻き込まれによる負傷の内容は、骨折が4割以上を占め、次いで創傷、打撲、関節の障害と続きます。
労災事故が多い年代は40~60代で6割を占め、経験年数1年~3年半の労災事故は全体の5割を占めています。
高齢に近い労働者、技術が未熟な労働者は労災事故を起こしやすいため、
重点的に労働災害防止対策を講じることが大切です。
製造業の労働災害防止対策5選
製造業で実施すべき、5つの労働災害防止対策を解説します。
① 転倒災害を防ぐ4S活動を行う
4S活動とは、職場を整理、整頓、清掃、清潔にする活動のことです。
「整理」で職場に必要、不要なものを区別し、必要なものをいつでも使える状態で定位置を決めて「整頓」します。「清掃」でゴミやほこり、油や溶剤などを清掃し、床や機械、用具だけでなく、労働者の身の回りも「清潔」に保つことが4S活動の基本です。さらに、決めたことを守る「しつけ」も4S活動に必要です。
床の汚れや散らかりは、転倒や転落の原因になります。快適かつ清潔な状態で作業できる状態を4S活動で保つことが、労災事故防止に効果的です。
② 動力機械の労災防止対策を行う
製造業に多い、はさまれ・巻き込まれ事故の多くは、動力機械の操作中に起きています。
危険箇所に囲いや覆いを設ける、囲いがない場合は、インターロックなどで機械が停止する措置を講じましょう。機械の正常な状態を掲示するなど、正しい作業手順を見える化することも効果的です。
また、機械の掃除や調整の際に、必ず電源を切ることも徹底しましょう。
③ ヒューマンエラー防止対策を行う
労働災害のおよそ8割は、ヒューマンエラーが原因で起こるとされています。
ヒューマンエラーとは、自らとった行為により意図しない結果を引き起こすミスのことを指します。ヒューマンエラーが起こる原因は、以下の12種類に分類されます。
No. | ヒューマンエラーの12分類 |
---|---|
1 | 危険軽視・慣れ |
2 | 不注意 |
3 | 無知・未経験・不慣れ |
4 | 近道・省略行動 |
5 | 高齢者の心身機能低下 |
6 | 錯覚 |
7 | 場面行動本能 |
8 | パニック |
9 | 連絡不足 |
10 | 疲労 |
11 | 単調作業による意識低下 |
12 | 集団欠陥 |
出典:滋賀労働局
具体的なヒューマンエラー防止対策には、次に紹介するKY活動、ヒヤリ・ハット活動、パトロール活動が挙げられます。
KY活動
KY活動とは、職場の危険要素で想定される労働災害を、先回りして防止する活動のことです。想定される労働災害の防止対策を考えたうえで行動目標を決め、作業前に指差し呼称します。
製造業に多い、はさまれ、巻き込まれを防止するには、KY活動の指差し呼称が効果的です。
指差し呼称の際に「ヨシ!」と声をあげることで、うっかり、ぼんやりという意識が覚醒し、ヒューマンエラーの防止につながります。
ヒヤリ・ハット活動
ヒヤリ・ハット活動とは、「ヒヤリ・ハット」した経験を報告・共有する活動のことです。ヒヤリ・ハットの体験を収集することで、危険性の認識を深め、労働災害を未然に防ぐことにつながります。
ヒヤリ・ハットの報告には、日時や場所、行動などを詳しく記載しましょう。些細なヒヤリ・ハットでも重大な事故の原因になりかねないため、報告するよう促すことも大切です。
なお、活動で得たヒヤリ・ハット事例は、次章にて紹介するリスクアセスメントに活用する重要な情報になります。
パトロール活動
パトロール活動では、機械の故障や安全装置の無効化など、不安全状態に注視しましょう。
作業者がルールを守っているかどうかも注視し、ルール違反がある場合は理由を聞くと効果的です。なぜなら、パトロール活動は見られている意識が高まり、労働災害防止になるからです。
パトロール活動後は、法令違反の是正、危険作業の廃止や変更、囲いなどの設備的対策、マニュアル整備の順にリスク低減措置を実施しましょう。
④ リスクアセスメントの実施
リスクアセスメントの目的は、職場にあるリスク(危険性)を洗い出すとともに、リスク低減対策を把握・実施し、労働災害が起きない快適な職場を実現することです。
リスクアセスメントは、以下の手順で実施します。
No. | リスクアセスメントの手順 |
---|---|
1 | 職場に潜在するあらゆる危険性又は有害性を特定する。 |
2 | これらの危険性又は有害性ごとに、既存の予防措置による災害防止効果を考慮のうえリスクを見積もる。 |
3 | 見積もりに基づきリスクを低減するための優先度を設定し、リスク低減措置の内容を検討する。 |
4 | 優先度に対応したリスク低減措置を実施する。 |
5 | リスクアセスメントの結果及び実施したリスク低減措置を記録して、災害防止のノウハウを蓄積し、次回のリスクアセスメントに利用する。 |
出典:厚生労働省
危険性・有害性の特定は、ヒヤリ・ハット活動、KY活動と連動すると効果的です。製造業におけるリスク低減措置は、危険な作業の廃止や変更、管理的対策、個人用保護具の使用などが挙げられます。
⑤ 労災防止につながる「職長再教育(能力向上教育)」の受講
職長再教育(能力向上教育)とは、職長・安全衛生責任者の能力向上を目的とした教育のことです。職長、安全衛生責任者は初任から5年ごと、または機械設備などに大幅な変更があった場合に職長再教育の受講が必要です。
【製造業】職長再教育(能力向上教育)のカリキュラム | ||
---|---|---|
科目 | 範囲 | 時間 |
職長等として行うべき労働災害防止及び労働者に対する指導又は監督の方法に関すること | 1:基本項目(必須) (1)職長等の役割と職務 (2)製造業における労働災害の動向 (3)「リスク」の基本的考え方を踏まえた職長等として行うべき労働災害防止活動 (4)危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置 (5)異常時等における措置 (6)部下に対する指導力の向上(リーダーシップなど) (7)関係法令に係る改正の動向 |
120分以上 |
2:専門項目(選択) (1)事業場における安全衛生活動 (2)労働安全衛生マネジメントシステムの仕組み (3)部下に対する指導力の向上(コーチング、確認会話など) |
必要な時間 | |
グループ演習 | 以下の項目のうち1以上について実施すること。 ・ 職長等の職務を行うに当たっての課題 ・ 事業場における安全衛生活動(危険予知訓練など) ・ 危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置 ・ 部下に対する指導力の向上(リーダーシップ、確認会話など) |
120 分以上 |
合 計 | 360 分以上 |
出典:厚生労働省
ご覧のとおり、労働災害防止対策について重点的に学ぶのが職長再教育の特徴です。労災事故が多い製造業こそ、職長再教育で職場の安全の強化に努める必要があります。
職長再教育は労働災害防止協会などの講習会、会社の出張講習、通信講座で受講が可能です。仕事が忙しく講習会の参加が難しい、出張講習を会社が実施しないといった場合は通信講座での受講が最適です。
通信講座は解説動画と専用のテキストで勉強するため、自宅、休憩時間、通勤中など時間を有効活用できます。
職長再教育の対面での講習会は、建設業向けのものが多く、製造業は比較的少ない状況です。数少ない製造業の講習会の開催日や場所を探すのは容易ではなく、また、スケジュールを合わせる手間もかかります。
それに対して通信講座では、いつでも自宅で製造業の職長再教育を受講できるので、利便性は非常に高いといえるでしょう。
労働災害が多い製造業では、適切な防止対策が必須
製造業は建設業と並ぶ、労働災害が多い業種です。転倒、はさまれ・巻き込まれ、転落・墜落など、さまざまな労災事故が発生しています。
製造業の労働災害を防ぐには、4S活動、動力機械の安全対策、ヒューマンエラー防止対策、リスクアセスメントが有効な方法です。
また、企業全体や労働者で行う対策に加え、職長や安全衛生責任者の職長再教育も労働災害防止につながります。製造業の職長再教育は、時間と場所を選ばず受講できる通信講座がおすすめです。
製造業で労働者を指導監督する立場にある方こそ、通信講座で職長再教育をしっかり学びましょう。